2025年 年金制度改革法案:あなたの生活にどう影響するかを徹底解説

はじめに:2025年年金制度改革法案とは?

日本の年金制度は、急速な少子高齢化と多様な働き方に対応するため、常に変化しています。 2025年に向けて政府が国会に提出した「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のために国民年金法等の一部を改正する等の法律案」は、 「人生100年時代」「多様な働き方」「家族のかたちの変化」といった社会構造の変化に対応するための、包括的かつ構造的な見直しを目指しています。

改革の背景と目的

日本の年金制度が直面する最大の課題は、世界に類を見ないスピードで進む少子高齢化です。 年金を支える現役世代の減少と、年金を受け取る高齢世代の増加という構造的な問題は、制度の持続可能性に大きな負担をかけています。 また、健康寿命の延伸や女性の社会進出が進み、多くの人がこれまでよりも長い期間、多様な形で働くようになることが見込まれています。

これまでの年金制度は終身雇用を前提としていましたが、今回の改革はパート・アルバイト、フリーランスなど多様な働き方に対応し、 「誰もが働き方に応じて保障される仕組み」へと制度を再設計することを目的としています。 最終目標は、現役世代の社会保障費負担の増大を避けつつ、給付と負担のバランスを適切に保ち、安定した年金制度を持続させることです。

なぜ今、年金制度が見直されるのか

今回の年金制度改革は、単なる財政調整に留まらず、年金制度の根本的な哲学を再構築し、将来の社会モデルを見据えた「再設計」の側面が強くあります。 従来の制度は、性別役割分担や終身雇用を前提としていましたが、現代社会では共働き世帯が主流となり、非正規雇用やフリーランスといった多様な働き方が一般化しています。 健康寿命が延び、70歳を超えても働く意欲を持つ人が増える中で、旧来の制度設計では社会の実態に合わなくなってきています。

例えば、遺族年金の男女差是正や配偶者加給年金の見直しは、年金制度を「世帯単位」から「個人単位」の保障へと移行させようとする動きの具体的な現れです。 これは、より多くの個人が多様な形で社会保障の恩恵を受けられるようにする、制度の「機能強化」を目指すものです。

今回の年金制度改革の主要ポイント

1. 被用者保険の適用拡大:パート・アルバイトの社会保険加入促進
中小企業のパート・アルバイト労働者にも社会保険の適用範囲が拡大され、「106万円の壁」が事実上撤廃される方向です。約90万〜最大約860万人の短時間労働者が新たに社会保険の対象となる可能性があります。これにより、中・低所得者層の厚生年金水準が約0.2%引き上げられる効果も期待されます。

2. 在職老齢年金制度の見直し:働きながら年金を受け取る方へ
年金が支給停止となる収入基準額が、現行の50万円(令和6年度価格)から62万円に引き上げられます(令和8年4月1日施行)。これにより、約20万人が年金を全額受給できるようになると見込まれます。

3. 厚生年金保険の標準報酬月額上限引き上げ:高所得者の保険料と年金
標準報酬月額の上限が、現行の65万円から段階的に75万円に引き上げられます。
68万円: 令和9年9月1日~
71万円: 令和10年9月1日~
75万円: 令和11年9月1日~
報酬月額66万5千円以上の被保険者は保険料が増えますが、将来の年金も増額します。中・低所得者層の厚生年金水準が約0.2%引き上げられる効果も期待されます。

4. 遺族年金制度の改正:男女格差是正と新たな保障
男女間の格差が是正され、18歳未満の子がいない20~50代の配偶者を原則5年の有期給付の対象とし、これまで対象外だった60歳未満の男性も新たに支給対象となります(令和10年4月1日施行)。

5. 子育て世帯への支援強化:加給年金等の見直し
子に係る加算額が引き上げられ、第3子以降も同額が支給されます。一方で、新たに年金を受給する人を対象に、配偶者加給年金の額が年36万7,200円に縮小されます(令和10年4月1日施行)。

6. iDeCo(確定拠出年金)の加入可能年齢延長:セカンドキャリアの資産形成
60歳から69歳までの人が、一定の条件を満たせばiDeCoに加入して掛金を拠出できるようになります。これにより、70歳直前まで節税しながら老後資金を増やす選択肢が広がります。

7. その他の重要な変更点
基礎年金の保険料拠出期間の45年への延長・給付増額: 現行の40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長され、拠出期間が伸びた分に合わせて基礎年金が増額します。
離婚時の年金分割の請求期限の伸長: 請求期限が2年から5年に伸長されます。
遺族厚生年金の受給権者への繰下げ申し出の容認: 遺族厚生年金受給者も老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げ申し出が可能になります(令和10年4月1日施行)。
厚生年金保険の加入可能年齢75歳への引上げ: 現行の70歳未満から75歳に引き上げられます。

注目される「基礎年金底上げ」議論の行方

当初、与党は厚生年金の積立金を活用した「基礎年金底上げ案」を検討しましたが、夏の参院選への懸念から法案から除外されました。 しかし、立憲民主党の修正案を受け入れ、関連法案の付則に「2029年の次回財政検証で基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合には底上げ策を実施する」と明記することで合意しました。

これにより法案は成立見込みですが、将来的に必要となる財源の議論は先送りされた形です。 マクロ経済スライド方式の下では、少子高齢化が進むと給付額の引き上げ率が低く抑えられ、約30年後には基礎年金給付額が昨年度水準より3割下がる恐れが指摘されています。 これは特に就職難で厚生年金加入期間が短い傾向がある「氷河期世代」の生活を危うくする可能性があり、基礎年金底上げは喫緊の課題です。

【一目でわかる】年金制度改革の主要変更点と影響

改革項目 現行制度 改正内容・数値 施行時期 主な影響
被用者保険の適用拡大 企業規模・労働時間による適用制限(「106万円の壁」など) 企業規模要件の廃止、5人以上個人事業所の非適用業種解消など。
約90万~860万人が対象となる可能性
未定(法案成立後) 中小企業のパート・アルバイトも社会保険に加入しやすくなり、将来の年金受給額が増加。中・低所得者層の厚生年金水準が約0.2%引き上げられる効果も期待。
在職老齢年金制度の見直し 支給停止収入基準額:50万円(令和6年度価格) 支給停止収入基準額:62万円に引き上げ 令和8年4月1日 年金を受給しながら働く高齢者が、年金の減額を意識せずより多く働けるようになる。新たに約20万人が年金を全額受給可能に。
厚生年金保険の標準報酬月額上限引き上げ 現行上限:65万円 段階的に75万円に引き上げ。
・68万円:令和9年9月1日~
・71万円:令和10年9月1日~
・75万円:令和11年9月1日~
令和9年9月1日より段階的に 報酬月額66.5万円以上の高所得者の保険料が増加するが、将来の報酬比例部分の年金も増額。制度全体の財政安定化に貢献。
遺族年金制度の改正 男女間の支給要件に差がある 男女差を解消。18歳未満の子がいない20~50代配偶者を原則5年の有期給付、60歳未満男性も支給対象に。 令和10年4月1日 多様な家族のあり方に対応し、性別にとらわれずに保障を受けられるようになる。既存受給者、60歳以上で死別した配偶者、40歳以上の妻には変更なし。
子育て世帯への支援強化 子に係る加算額、配偶者加給年金(年36万7,200円) 子に係る加算額引き上げ。老齢厚生年金の配偶者加給年金は新規受給者に対し年36万7,200円に縮小。 令和10年4月1日 子どもの人数に応じた支援が充実。子育て世帯全体にとって実質的な支援強化。既存の配偶者加給年金受給者には影響なし。
iDeCo(確定拠出年金)の加入可能年齢延長 現行上限:60歳 60歳から69歳まで加入可能(一定条件あり) 未定(法案成立後) 定年延長や再雇用、フリーランスの高齢者が70歳直前まで節税しながら老後資金を増やす選択肢が広がる。
基礎年金の保険料拠出期間の延長 現行:40年(20~59歳) 45年(20~64歳)に延長 未定(法案成立後) 拠出期間が伸びた分、基礎年金が増額する仕組み。将来の給付水準維持に貢献。
離婚時の年金分割の請求期限の伸長 現行:2年 5年に伸長 公布の日から1年を超えない範囲内で政令で定める日 離婚後の生活設計において、より余裕をもって年金分割の手続きを進められるようになる。
遺族厚生年金受給権者への繰下げ申し出容認 老齢年金の繰下げは、遺族年金受給者には制限がある 遺族厚生年金受給者も老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げ申し出が可能に(老齢厚生年金は遺族厚生年金未請求の場合に限る) 令和10年4月1日 年金受給開始時期の選択肢が広がり、個人のライフプランに応じた柔軟な年金受給が可能になる。
厚生年金保険の加入可能年齢引上げ 現行上限:70歳未満 75歳に引き上げ 未定(法案成立後) 70歳以降も働く人が厚生年金に加入し、老後の保障をさらに手厚くできる。

この改革があなたの生活にどう影響するか

パート・アルバイトの方: 社会保険の適用拡大で将来の年金額が増える可能性がありますが、保険料負担が増え手取りが一時的に減少する可能性があります。

働き続ける高齢者の方: 在職老齢年金制度の支給停止基準額引き上げやiDeCoの加入可能年齢延長により、年金減額を気にせず長く働き、資産形成しやすくなります。

高所得者の方: 標準報酬月額の上限引き上げで保険料負担は増えますが、将来の年金受給額も増える見込みです。

子育て世帯の方: 子どもへの加算が強化され経済的支援が手厚くなります。新規受給の夫婦世帯では配偶者加給年金が縮小されるため注意が必要です。

離婚を経験された方: 年金分割の請求期限が延長され、より余裕をもって手続きを進められるようになります。

氷河期世代の方: 基礎年金底上げ議論の先送りにより、将来的な給付水準低下リスクが残ります。自助努力による資産形成や長く働くことの重要性が高まります。

私たちが今からできること

自身の年金情報を確認する: 「ねんきん定期便」やマイナポータルで自身の加入状況や将来の年金額を詳細に確認しましょう。

ライフプランを見直す: 自身の働き方、退職時期、老後の生活設計や資産形成の計画を改革内容を踏まえて見直しましょう。

私的年金制度の活用: iDeCoやNISAなど、税制優遇のある私的年金制度の活用を検討し、老後資金の形成に役立てましょう。

情報収集を続ける: 年金制度は今後も継続的に見直される可能性があります。常に最新情報を把握し、自身のライフプランに反映させましょう。

まとめ:持続可能な年金制度へ向けて

今回の2025年年金制度改革法案は、少子高齢化、多様な働き方、家族のあり方の変化といった社会の大きな波に対応するための、包括的かつ構造的な見直しです。 「より多くの人が、より長く、安心して働ける社会の実現」を目指し、これまで「制度の谷間」に取り残されていた人々にも保障の道が開かれる内容となっています。

基礎年金底上げの議論は短期的に先送りされたものの、将来的な検討の可能性が付則に明記されたことは重要です。 しかし、この先送りは、将来世代、特に「氷河期世代」が直面する可能性のある課題を浮き彫りにしています。 年金制度は、国民一人ひとりの生活を支える重要な社会インフラであり、その動向を理解し、自身のライフプランに反映させていくことが、不確実な時代を生き抜く上で不可欠です。