2025年年金制度改革法案の概要

2025年に国会で審議されている年金制度改革関連法案は、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」という正式名称です。この法案は、少子高齢化や就労形態の多様化など社会経済の変化に対応して年金制度を見直すものであり、現役世代・高齢世代双方の老後生活の安定と所得保障機能の強化を図ることを目的としています。

主な改正ポイント

改正項目 内容 施行時期
被用者保険の適用拡大
(「106万円の壁」の撤廃)
パートタイム労働者等への厚生年金・健康保険の加入要件緩和。週20時間以上働く短時間労働者の社会保険適用を拡大 賃金要件撤廃:公布から3年以内
企業規模要件:段階的に撤廃(2035年10月完全適用)
在職老齢年金制度の見直し 高齢者が働きながら年金を受け取る際の支給停止基準を50万円から62万円に引き上げ 2026年4月~
遺族年金制度の見直し 遺族厚生年金の給付期間・要件の男女差解消。子のない60歳未満の配偶者への給付を原則5年間の有期給付に統一 2028年4月~
(20年かけて段階的に実施)
標準報酬月額上限の引き上げ 厚生年金保険料・給付算定に用いる賃金上限額を65万円から段階的に75万円まで引き上げ 2027年9月:68万円
2028年9月:71万円
2029年9月:75万円
私的年金制度の見直し 個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢を65歳未満から70歳未満に拡大 公布後速やか(2028年頃までに)

「106万円の壁」撤廃(被用者保険の適用拡大)

現在、短時間労働者(パート・アルバイト)が厚生年金・健康保険に加入するためには、週の所定労働時間20時間以上、月額賃金8.8万円以上(年収約106万円以上)、従業員51人以上の企業に勤めるなどの条件を満たす必要があります。

今回の改正では、この「年収106万円の壁」にあたる賃金要件と企業規模要件を段階的に撤廃し、短時間労働者でも社会保険に加入しやすくします。

企業規模要件の拡大スケジュール

適用開始時期 対象企業
2027年10月~ 従業員36~50人の企業まで拡大
2029年10月~ 従業員21~35人の企業まで拡大
2032年10月~ 従業員11~20人の企業まで拡大
2035年10月~ 全て(~10人以下の企業を含む)に拡大・要件撤廃

これにより、新たに約90万人の中小企業の短時間労働者が厚生年金等に加入し、将来受け取る年金額の増額などのメリットを得られる見込みです。

在職老齢年金制度の見直し

在職老齢年金制度とは、60歳以上で年金を受給しながら一定以上の賃金収入を得て働く場合に、年金の一部または全部を支給停止(減額)する仕組みです。

現行では、65歳以上の高齢者について「年金+給与(月額換算)が50万円」を超えると超過分の年金の半額がカットされます。

今回の改正では、在職老齢年金の支給停止基準額(月収換算)を現行の50万円から62万円に引き上げ、高齢者が年金減額を気にせず働けるよう緩和します。例えば、毎月の年金と給与の合計が62万円以下であれば年金が減額されなくなり、従来よりも約20万人多くの高齢者が減額を意識せず就労継続できる見込みです。

遺族年金制度の見直し

現行制度では、遺族厚生年金について子のない配偶者が受け取れる条件・期間に男女差がありました。具体的には、「夫を亡くした妻」は30歳以上で子がいなければ生涯にわたり遺族厚生年金を受給できますが、「妻を亡くした夫」の場合、55歳以上でないと受給権がありませんでした。

今回の改正では、この男女差を解消し、子のない若い遺族配偶者への給付を男女とも原則5年間の有期給付に統一します。これにより、「妻だけ生涯受給できて夫は若いと受給できない」という不公平が是正されます。

また、有期給付者への配慮措置も導入されます:

なお、現在すでに遺族厚生年金を受給している人や、60歳以上の配偶者、18歳未満の子のいる配偶者については現行制度が維持されます。

標準報酬月額上限の引き上げ

厚生年金の保険料および将来の年金額は、基本的に標準報酬月額(月収を一定の等級区分に当てはめた額)に基づいて計算されます。現行では月65万円が最高等級となっています。

改正案では、「高収入者にも賃金に応じた負担をしてもらい、その分将来の年金給付を手厚くする」ことを目的に、この上限を段階的に75万円まで引き上げます。

実施時期 標準報酬月額上限
2027年9月~ 68万円
2028年9月~ 71万円
2029年9月~ 75万円

この変更で該当者(高所得の会社員等)およびその企業は保険料負担が増えますが、その分将来受け取れる年金額も増加します。

私的年金制度(iDeCo)の見直し

老後の資産形成を支援する個人型確定拠出年金(iDeCo)についても加入要件が緩和されます。現行制度では、iDeCoに加入できるのは国民年金の被保険者であり、かつ老齢基礎年金やiDeCoの年金給付を受給していない人に限られ、一般に60歳~65歳未満までしか掛金拠出が継続できませんでした。

改正案ではこの年齢要件を統一・緩和し、60歳以上70歳未満の人で、老齢基礎年金やiDeCo年金をまだ受給していない場合は、iDeCoに新規加入または掛金拠出の継続を認めるよう拡充します。これにより、例えば定年後再雇用で働き続けるシニア層などが65~69歳の間も私的年金で老後資産形成を継続できるようになります。

その他の改正事項

年代別に見た将来の年金額・制度変更の影響

20代(現在: 若年層)

非正規雇用で働いても週20時間以上であれば収入に関係なく社会保険に加入することになるため、将来的に受給できる年金額の底上げにつながります。一方、これまで「扶養内」で働けば保険料負担なしという選択肢に魅力を感じていた場合、若いうちから保険料負担を経験する世代とも言えます。

30代(現在: 壮年層)

子育てや住宅取得など支出の多い時期ですが、今回の改革で育児中世帯への支援が強化される恩恵があります。妻がパート勤めの場合は徐々に厚生年金に加入する枠が広がるため、将来の年金額増加が期待できます。また、標準報酬月額上限引き上げにより、高所得者はより多く保険料を納め、将来多くの年金を得るチャンスが生まれます。

40代(現在: 中年層)

働き盛りで、改革の恩恵と負担をともに感じやすい世代です。企業規模要件撤廃が進むことで、社会保険に加入できる場面が増えます。高収入者であれば標準報酬月額の上限引き上げにより現役時代の負担増がありますが、その分退職後の年金額増加というリターンも見込めます。

50代(現在: アラフィフ世代)

定年後の生活設計を具体的に考え始める時期で、在職老齢年金やiDeCo拡充など直接響く項目が多く含まれます。在職老齢年金の支給停止基準引き上げにより、60代前半で働き続ける場合の年金減額が大幅に緩和されます。また、iDeCo加入可能年齢の70歳未満まで延長により、老後資金作りのラストスパートをかけられる余地が広がります。

60代以上(現在: 高齢世代)

現在すでに年金を受給している高齢世代への直接的影響は限定的ですが、「子の加算額引き上げ」は現受給者にも適用されるため、孫を養育している高齢者などは2028年以降加算額が増えて年金が増額します。また、在職老齢年金の緩和により年金の全額受給と賃金所得の両立がしやすくなるメリットがあります。

施行スケジュール

2026年4月

在職老齢年金制度の見直し
(支給停止基準額を50万円から62万円に引き上げ)

2027年9月・10月

・標準報酬月額上限を68万円に引き上げ
・企業規模要件:従業員36~50人の企業まで拡大

2028年4月・9月

・遺族年金制度の見直し開始
・子の加算額引き上げ
・標準報酬月額上限を71万円に引き上げ

2029年9月・10月

・標準報酬月額上限を75万円に引き上げ
・企業規模要件:従業員21~35人の企業まで拡大
・個人事業所への適用拡大(業種要件撤廃)

2032年10月

企業規模要件:従業員11~20人の企業まで拡大

2035年10月

企業規模要件:全て(~10人以下の企業を含む)に拡大・要件撤廃

財源と政治的背景

今回の年金改革は、年金財政の持続可能性を高めつつ、必要な部分に給付を手厚くするものです。財源面では、保険料収入の増加と支出の適正化という両面から効果が見込まれます。

財源へのプラス要因:

財源へのマイナス要因:

政治的には、与党内で「厚生年金積立金の基礎年金への活用」について反発があり、当初案から削除された経緯があります。野党は「餡のないあんパン」と批判し、基礎年金底上げ策の復活を求める修正案を提示。結果的に「2029年の財政検証で基礎年金給付水準の低下が見込まれる場合には底上げ策を実施する」と法律に明記する方向で調整がなされました。

国民への影響と賛否

賛成意見:

反対・懸念意見: