「年金は繰り下げたほうが得」は本当か?
「繰り下げが得で、繰り上げは絶対にだめ」という常識は疑うべきだ。60歳での受給開始でも一生お金に困らない方法はある。
年金の繰り下げ・繰り上げ受給の基本
繰り下げ受給の仕組み
繰り下げ期間 |
増額率 |
年金額への影響 |
1ヶ月 |
0.7%増 |
わずかな増額 |
1年(12ヶ月) |
8.4%増 |
約1割増 |
5年(60ヶ月) |
42%増 |
4割以上増 |
10年(最大75歳まで) |
84%増 |
ほぼ倍額 |
繰り上げ受給の仕組み
繰り上げ期間 |
減額率 |
年金額への影響 |
1年 |
4.8%減 |
約5%減 |
5年(60歳から) |
24%減 |
本来額の76% |
重要ポイント:
- 会社員は基礎年金・厚生年金のどちらか一方のみ繰り下げ可能
- 繰り上げの場合は基礎年金・厚生年金セットでの繰り上げのみ
- 増減した年金額は生涯継続
繰り下げ受給のメリット・デメリット
【メリット】
- 長生きできれば総受取額が多くなる
- 60代前半の給与年金支給停止を回避
- 収入が増えるため、医療費や介護費用の保障が厚くなる
- 繰り上げたとしても、遺族年金は5歳年下まで計算される
- 繰り下げで受給すると、完全に年下不足へと対抗法
【デメリット・注意点】
- 保障された大企業が続けば継続する、一度繰り上げ結果なると、取消できない
- 基礎と厚生を同時に行う実家がある
- 障害年金(・非課税)の受給はできなくなる
- 国民年金の任意加入や保険で受年金を増やすことができなくなる(ただし、厚生年金加入での増額は可能)
- 繰り上げ受給後に被保険者となった期間の保険料は年金額に反映されるのは5歳到着時、在職老齢年金支給停止規定は適用される
- 寡婦年金は繰り上げ受給により、60代前半(夫とは65歳)で死亡すると、翌日45歳まで受け過給年金と、自身の老齢年金のどちらか一つしか受給できない
- 繰り上げても加給年金は65歳から
- DcCo に加入できなくなる
繰り下げ受給の隠れたデメリット
1. 手取りはそこまで増えない
年金額が42%増えても、手取りベースではそこまで増えない理由:
- 税金や社会保険料の負担が重くなる
- 公的年金等控除が活用できない期間がある
- 医療費・介護サービスの自己負担割合が増加する可能性
2. 82歳まで生きないと元が取れない
受給パターン |
年金額例 |
損益分岐点 |
65歳開始(基本) |
200万円/年 |
- |
70歳開始(5年繰り下げ) |
284万円/年 |
82歳まで受給が必要 |
3. 加給年金の受給漏れリスク
5歳年下の配偶者がいる場合の注意:
厚生年金を5年繰り下げると、加給年金約200万円(5年分)を受け取り損になる可能性があります。
繰り上げ受給のメリット
従来の常識を覆す考え方
【繰り上げ受給の実際のメリット】
- 60歳でリタイア生活を実現できる
- 早期に年金を受け取って運用に回せる
- 社会保険料や税負担を抑えられる
- 医療費・介護サービスの自己負担を軽減
- 遺族年金は本来水準で計算される(減額されない)
年金運用戦略:繰り上げ受給+運用の威力
シミュレーション条件
受給開始年齢 |
年金額 |
運用利回り |
60歳(繰り上げ) |
76万円/年 |
年6% |
65歳(標準) |
100万円/年 |
70歳(繰り下げ) |
142万円/年 |
75歳(最大繰り下げ) |
184万円/年 |
運用成果比較
年齢 |
60歳受給+運用 |
65歳受給+運用 |
70歳受給+運用 |
65歳時 |
530万円 |
100万円 |
0円 |
70歳時 |
1,138万円 |
698万円 |
142万円 |
75歳時 |
1,900万円以上 |
1,400万円程度 |
900万円程度 |
運用の威力:
60歳から繰り上げ受給し年6%で運用した場合、少なくとも100歳まで65歳受給・70歳受給に逆転されることはない。
運用利回り別シナリオ
運用利回り |
60歳受給の優位性 |
逆転される年齢 |
年6% |
100歳まで継続 |
逆転されない |
年5% |
96歳で70歳受給に逆転 |
96歳 |
税制面での考慮事項
公的年金等控除の活用
年齢 |
公的年金等控除額 |
活用方法 |
60~64歳 |
年60万円×5年分 |
繰り上げ受給で非課税枠活用 |
65歳以上 |
年110万円 |
標準的な控除額 |
まとめ:賢い年金戦略とは
重要な考え方の転換
- 「繰り下げが絶対得」という常識を疑う
- 受給総額ではなく、生活の質を重視する
- 年金を運用資金として活用する発想
- 税制や社会保険料への影響を総合的に判断
60歳繰り上げ受給が有効なケース
- 60歳でリタイアを希望する人
- 運用知識があり、長期投資が可能な人
- 65歳まで給与収入がある人
- 社会保険料負担を抑えたい人
繰り下げ受給が有効なケース
- 70歳以降も働き続ける予定の人
- 十分な貯蓄があり年金に頼らない人
- 長寿家系で長生きの可能性が高い人
- 運用に不安がある人
運用にはリスクがあり、毎年確実に6%で運用できるものではありません。しかし投資の基本を十分理解したうえで行えば、繰り上げ受給して運用するという選択肢も一考の余地があるのではないでしょうか。
※本記事は投資を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。