新・サイバー防御、はじまる。

サイバー対処能力強化法と関連法のポイントを図解

1. なぜ今、サイバー防御の強化が必要なのか?

サイバー攻撃は年々巧妙化・深刻化し、その脅威は質・量ともに増大しています。特に、私たちの生活に不可欠な電力、水道、通信などの重要インフラが狙われると、社会機能が麻痺する危機に直面します。

令和6年には、観測されたサイバー攻撃関連通信の99%以上が海外から発信されており、国境を越えた脅威への対処が急務となっています。

近年の深刻な攻撃例

  • 重要インフラ等への侵入・潜伏(有事の際の機能停止を狙う)
  • ランサムウェアによる業務停止・身代金要求
  • 政府機関や企業からの機微な情報窃取

サイバー攻撃関連通信数の推移

出典:国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)資料等

2. 「能動的サイバー防御」の全体像

新しい法律は、サイバー攻撃から社会を守るため、「官民連携の強化」「通信情報の利用」「アクセス・無害化」の3つの柱で構成されています。

国民・民間企業

重要インフラ事業者など

① 官民連携の強化

インシデント報告を義務化
情報を分析・共有し防御力向上

政府 (内閣)

情報集約・分析・司令塔

② 通信情報の利用

攻撃インフラを検知するため
限定的な通信情報を分析

③ アクセス・無害化

警察・自衛隊が攻撃サーバを無害化

攻撃サーバ

主に海外に設置

インターネット

独立機関

サイバー通信情報監理委員会

が、政府の活動を
厳格に審査・検査

3. 3つの柱 詳細

社会全体の防御力を高めるため、政府と民間、特に重要インフラを担う事業者との連携を強化します。

  • インシデント報告の義務化: 基幹インフラ事業者は、サイバー攻撃の被害やその予兆を認知した場合、国への報告が義務付けられます。
  • 情報共有のための協議会: 国と関係機関、同意を得た民間事業者等で構成される協議会を設置。攻撃手法や対策などの機微な情報を共有し、対策を協議します。
  • 脆弱性対応の強化: 国が製品の脆弱性を認知した場合、製造・販売元(ベンダー)に情報提供し、対策を要請できる仕組みを整備します。

基幹インフラとは?

国民生活・経済活動の基盤であり、機能停止が安全保障を損なう恐れのある重要なサービス。電気、ガス、水道、鉄道、通信、金融など15分野が指定されています。

攻撃者のインフラ(C2サーバ等)の実態を把握するため、憲法で保障される「通信の秘密」に最大限配慮した上で、限定的な通信情報を取得・分析します。

✓ 見るのは「機械的情報」のみ

個人のメールや通話の内容といったコミュニケーションの本質的な内容は分析の対象外です。分析するのは、IPアドレス、通信日時、サーバへの指令(コマンド)など、コンピュータが処理するための機械的な情報に限定されます。

✓ 厳格なチェック体制

通信情報の取得には、独立した第三者機関である「サイバー通信情報監理委員会」の事前承認が原則必要です。取得後も同委員会による継続的な検査が行われ、国会への年次報告も義務付けられています。

通信の種類 説明 分析の対象
外外通信 国外から発信され、日本を経由して、国外へ送信される通信
外内通信 国外から日本国内へ送信される通信
内外通信 日本国内から国外へ送信される通信
内内通信 日本国内で完結する通信 ×

分析によって特定された攻撃用サーバなどに対し、被害の未然防止・拡大防止のためにアクセスし、無害化する措置を講じます。これは自らサイバー攻撃を仕掛けるものではありません。

  • 実施主体: 専門的な能力を持つ警察および自衛隊が実施します。
  • 措置の内容: 攻撃用サーバにアクセスし、攻撃に使われる不正なプログラムを停止・削除するなど、被害防止に必要な最小限度の措置に限定されます。
  • 厳格な手続き: こちらも原則としてサイバー通信情報監理委員会の事前承認が必要です。国外のサーバに措置を行う場合は、外務大臣との協議も行われます。

4. 新しい政府の体制

これらの取組を強力に推進するため、政府の体制も強化されます。

サイバーセキュリティ戦略本部

総理を本部長、全閣僚を本部員とし、国の最高意思決定機関として機能。

内閣サイバー官 (新設)

司令塔として、サイバーセキュリティ政策を一体的に総合調整。

内閣府 (実施部門)

官民連携や通信情報の利用などの実務を担当。

5. Q&A

Q. 一般の国民に関係ありますか?

直接的な義務が生じることはありません。しかし、社会全体のサイバー防御力が向上することで、誰もが安心してデジタル社会の恩恵を受けられるようになります。また、政府から発信される注意喚起などの情報は、個人や中小企業の自衛にも役立ちます。

Q. 政府による監視社会につながりませんか?

通信情報の利用は、目的・対象・手続きが法律で厳格に定められています。個人の思想信条やプライベートなやり取りを覗き見ることはありません。独立機関による外部からの厳しい監視と、国会への報告により、権限の濫用を防ぐ仕組みが何重にも設けられています。

6. 関連データ・規格

法律の施行スケジュール

規定施行期日(公布日: 令和7年5月23日)
組織改編(戦略本部、サイバー官設置等)公布日から6ヶ月以内
独立機関(監理委員会)設置公布日から1年以内
基本部分(官民連携等)公布日から1年6ヶ月以内
通信情報の利用、アクセス・無害化等公布日から2年6ヶ月以内

主な罰則規定

違反行為罰則
国の職員等による通信情報データベースの不正提供4年以下の拘禁刑 or 200万円以下の罰金
国の職員等による通信情報に関する秘密漏洩・盗用3年以下の拘禁刑 or 100万円以下の罰金
基幹インフラ事業者の報告義務等に関する命令違反200万円以下の罰金