『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、スウェーデンの医師・統計学者であるハンス・ロスリングとその家族によって書かれた本で、私たちが世界について持つ「思い込み」や「誤解」に気づき、より事実に基づいた視点を持つための方法を紹介しています。
以下に、全体の要点と各章の内容をもれなく、わかりやすく要約してまとめます。
■ 全体の要点(冒頭の主張)
- 多くの人は世界を悲観的・二極的に捉えている(例:「先進国 vs 発展途上国」)。
- 実際には、世界は少しずつ、しかし確実に良くなっている。
- その「良い変化」が見えないのは、人間の本能的な思い込みによる。
- 「ファクトフルネス」とは、事実に基づき、冷静に世界を捉える習慣のこと。
■ 10の「思い込み本能」と対処法(各章の要約)
第1章:分断本能(Gap Instinct)
思い込み:「世界は『豊かな国』と『貧しい国』の二極に分かれている」
事実:ほとんどの人々は中間層の生活レベルにある。
対処法:4つの所得レベル(レベル1〜4)で世界を見る。二分化を避ける。
■ 具体例:
- 多くの人が「アフリカ=貧困」と思っているが、実際は大多数のアフリカ人が所得レベル2〜3(=バイクを持ち、子どもを学校に通わせ、ある程度安定した生活)に属する。
- ナイジェリアではスマホ保有率が急上昇。都市部では教育や医療が拡充されている。
- たとえば、インドのムンバイの中間層家庭では冷蔵庫やテレビがあり、子どもは大学に通っている。
➡ 「1日1ドルで生きる人々」は急減しており、世界はもはや二分化されていない。
第2章:ネガティブ本能(Negativity Instinct)
思い込み:「世界はどんどん悪くなっている」
事実:飢餓、貧困、乳児死亡率など多くの指標は改善している。
対処法:「悪い」と「より良くなっている」は両立すると理解する。
■ 具体例:
- 乳児死亡率(5歳未満の子どもが死亡する割合)は、1950年では全世界平均が19%、現在では約4%未満にまで改善。
- 極度の貧困率は1980年代には40%超だったが、現在は10%以下。
- メディアは災害・戦争・犯罪を強調するが、実際には戦争による死者数は長期的に減少傾向。
➡ 良いニュースは報道されにくいので「世界は悪くなっている」と錯覚しやすい。
第3章:直線本能(Straight Line Instinct)
思い込み:「一度伸び始めたものは直線的に増え続ける」
事実:多くの変化はS字型、段階的、あるいは減速する。
対処法:直線ではなく、他のパターンも考慮する。
■ 具体例:
- 世界人口は増えているが、出生率の低下により将来的には安定(110億人程度)すると予測されている。
- 日本の人口は2008年をピークに減少傾向。これは「直線的増加」ではない。
- インターネット普及率も、ある程度で飽和し「横ばい」に移行する国が多い。
➡ 成長や変化には「限界」「天井」「安定期」がある。
第4章:恐怖本能(Fear Instinct)
思い込み:「怖いもの=頻繁に起こる」
事実:飛行機事故やテロは稀。報道が恐怖を誇張する。
対処法:データでリスクを確認し、冷静に判断する。
■ 具体例:
- 飛行機事故は極めて稀。2017年、世界での商業飛行による死者数はゼロだった(一方で交通事故死は年間120万人)。
- テロによる死者は、世界全体で見ればごく一部(アメリカの年間テロ死者よりも落雷死の方が多い)。
- 放射能事故やエボラウイルスが報道されるたびに過剰な恐怖が広がるが、事実に基づいたリスク評価が必要。
➡ 恐怖は直感的に過大評価されやすい。
第5章:過大視本能(Size Instinct)
思い込み:「大きな数字=大きな問題」
事実:割合や比較が重要。数字だけで判断しない。
対処法:比率、分母、比較対象を見る。
■ 具体例:
- 「インドでは年間50万人の赤ちゃんが死亡」と聞くと深刻に思えるが、出生数の割合から見ると5%以下(世界平均並み)。
- 「自然災害で数千人死亡」といっても、被害を人口比で見れば少ない場合もある(人口比や死者数の減少傾向も重要)。
- 「5万人の失業者」と聞くと大きく感じるが、労働人口の1%未満であることが多い。
➡ 分母や割合と一緒に見ることでバランスの取れた判断ができる。
第6章:パターン化本能(Generalization Instinct)
思い込み:「ある一部=全体」
事実:グループ間や個人差が大きい。ステレオタイプは誤解を生む。
対処法:「彼らはみな〜」と思ったら立ち止まる。分類を細かく見る。
■ 具体例:
- 「アフリカ=貧困で教育が遅れている」→実際にはアフリカ諸国間で教育レベルに大きな差がある(例:ルワンダとナイジェリアでは学校就学率が大きく異なる)。
- 「イスラム教国=女性差別がひどい」→バングラデシュでは女性の大学進学率が急増。
- 「中国人は〜」などのステレオタイプ → 中国でも地方と都市、年齢層によって価値観や生活スタイルは全く違う。
➡ 「彼ら」「あの国の人」などの表現に注意することが重要。
第7章:宿命本能(Destiny Instinct)
思い込み:「文化や国の特徴は変わらない」
事実:すべては時間とともに変化する。過去の日本も例外でない。
対処法:「変わらない」と思わず、進化や変化の兆しを見る。
■ 具体例:
- かつての日本も「貧しくて識字率が低い国」だったが、数十年で高度経済成長を遂げた。
- 韓国も1980年代は独裁体制・発展途上国だったが、現在は技術先進国。
- イランやサウジアラビアでも、若者を中心に社会改革や女性の社会進出が進んでいる。
➡ 「いつまでも変わらない国・文化」は存在しない。
第8章:単純化本能(Single Perspective Instinct)
思い込み:「1つの原因、1つの解決策しかない」
事実:現実は複雑。多面的に見ることが重要。
対処法:多様な視点や情報源を持ち、単一視点を避ける。
■ 具体例:
- 「貧困の原因は教育不足だ」→一因ではあるが、インフラ、医療、法制度など複数の要因が絡む。
- 「すべての病気はワクチンで防げる」→治療や予防だけでなく、栄養・衛生環境の整備も不可欠。
- 「自由市場こそすべての解決策」→一方で、政府の介入が必要な場面(保健・福祉)もある。
➡ 多面的に捉える柔軟性が重要。
第9章:犯人捜し本能(Blame Instinct)
思い込み:「問題には必ず悪者がいる」
事実:システムの問題が多く、単一の犯人は存在しないことが多い。
対処法:「誰が悪いか」ではなく「なぜこうなったか」を考える。
■ 具体例:
- 感染症の拡大を「政府の失策」と決めつける → 実際は医療体制、国民の意識、情報伝達など構造的要因が複雑に絡む。
- 貧困国の経済停滞を「指導者の腐敗」だけで説明 → 歴史的背景や国際的構造も無視できない。
- 「あの企業が環境破壊をしている」→ しかし消費者の需要や規制の緩さも関係している。
➡ 「誰かを責める」より「どうしてこうなったか」を考える習慣を。
第10章:焦り本能(Urgency Instinct)
思い込み:「今すぐ行動しないと手遅れ!」
事実:データをもとに冷静に判断すべき。緊急性が誤判断を招く。
対処法:小さなステップで考え、急がず正確に。
■ 具体例:
- 「◯◯をしないと地球は滅ぶ!」というメッセージ → 恐怖を煽りすぎると逆に人々の関心が薄れる。
- 緊急支援や募金を求めるキャンペーン → 情報が不確かだと誤った団体に資金が渡る恐れ。
- 「とにかく急げ!すぐ決断を!」→ 慌てた判断は失敗しやすく、長期的に問題を悪化させることも。
➡ 冷静に、正確な情報を得て、慎重に対応することが信頼される判断。
■ 結論(最終章):ファクトフルネスを身につける
- 世界を正しく理解すれば、恐れや怒りに左右されにくくなる。
- 現実をポジティブに捉えることで、建設的な行動ができる。
- データを使いこなし、「本能」に振り回されない生き方を。
- 世界の実態を正確に捉えるための「知的習慣」。
- メディアや直感、本能に流されず、「データと視点」で見る力。
- 楽観ではなく、「事実に基づいた希望」を持つための方法。
■ 補足:世界の現状を示すキーデータ(著者による)
- 極度の貧困は過去50年で劇的に減少。
- 識字率・寿命・女性の教育レベルも向上。
- 世界の大多数は中所得層に属している。
■ この本の価値
- ニュースやSNSにあふれる「不安」から距離を置く力がつく。
- 教育、ビジネス、政策判断において、誤認を防ぐ。
- 子どもにも伝えられるシンプルな考え方。
『FACTFULNESS』は、世界をより正確に、そして希望を持って見るための「思考の道具箱」です。私たちは思い込みにとらわれやすい存在ですが、データと事実を基にした視点を持つことで、世界の実像に近づくことができます。本書は、ビジネスパーソンや教育者、そして日々のニュースに接するすべての人にとって、必読の一冊といえるでしょう。
この本、最初に以下のクイズが出題されます。
質問1:現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A 20%
B 40%
C 60%
質問2:世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?
A 低所得国
B 中所得国
C 高所得国
質問3:世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった
B あまり変わっていない
C 半分になった
質問4:世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?
A 50歳
B 60歳
C 70歳
質問5:15歳未満の子供は、現在世界に20億人います。国連の予測によると2100年に子供の数は約何人になるでしょう?
A 40億人
B 30億人
C 20億人
質問6:国連の予測によると、2100年には今より人口が40億人増えるとされています。人口が増える最も大きな理由は何でしょう?
A 子供(15歳未満)が増えるから
B 大人(15歳から74歳)が増えるから
C 後期高齢者(75歳以上)が増えるから
質問7:自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年でどう変化したでしょう?
A 2倍以上になった
B あまり変わっていない
C 半分以下になった
質問8:現在、世界には約70億人の人がいます。次の地図では、人の印がそれぞれ10億人を表しています。世界の人口分布を正しく表しているのは3つのうちどれでしょう?

質問9:世界中の1歳児の中で、何らかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?
A 20%
B 50%
C 80%
質問10:世界中の30歳男性は、平均10年感の学校教育を受けています。同じ年の女性は何年間学校教育を受けているでしょう?
A 9年
B 6年
C 3年
質問11:1996年には、トラとジャイアントパンダとクロサイはいずれも絶滅危惧種として指定されていました。この3つのうち当時よりも絶滅の危機に瀕している動物はいくつでしょう?
A 2つ
B 1つ
C ゼロ
質問12:いくらかでも電気を使える人は、世界にどのくらいるでしょう?
A 20%
B 50%
C 80%
質問13:グローバルな気候の専門家は、こらからの100年で地球の平均気温はどうなると考えているでしょう?
A 暖かくなる
B 変わらない
C 寒くなる
答えは、1C 2B 3C 4C 5C 6B 7C 8A 9C 10A 11 12C 13A
2017年にオンラインで1万2千人に行った調査では、質問13以外の正解数は、平均で12問中2問という結果だったとのことです。
これは、チンパンジーに解かせる(ランダムに答えるので大よそ正解率33%で4問正解する)よりも低いということになります。
また、チンパンジーは3つの選択肢から不正解の選択肢2つを同じ確率で選ぶが、人間はよりドラマチックな選択肢を選んでしまう傾向にあるとのことです。
上記クイズの答えと詳細な説明も交えながら、人間がなぜ誤ったものの見方をしてしまうのかについて人間の本能を以下の10種類に分けて、それを抑止するための方法や事実(データ)にもとづいて物事を見るファクトフルネスを解説してくれています。
コメント