年金繰り下げ一括受給の落とし穴 – 税務上の問題点と注意点

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年金繰り下げ一括受給の落とし穴 – 税務上の問題点と注意点

年金の受給開始時期を遅らせる「繰り下げ受給」について、近年関心が高まっています。65歳から受け取る年金を遅らせると、1カ月ごとに0.7%増額されるメリットがあります。具体的には、5年繰り下げて70歳から受給すると1.42倍、10年繰り下げて75歳からだと1.84倍になります。

ただし、繰り下げの選択肢の一つである「さかのぼって一括受給する方法」には注意が必要です。ファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏によれば、この方法には以下のような税務上の問題点があります。

一括受給で発生する延滞税問題

一括受給すると、過去の各年に収入があったとみなされ、その結果として各年の所得税が発生します。問題は、その納付期限はすでに過ぎているため、延滞税も併せて請求されるということです。

実際に札幌地方裁判所では、年金を一括請求したことで延滞税の納付を求められた人が国(札幌西税務署長)を相手取り、延滞税取り消しを求める裁判を起こしましたが、請求は棄却されました。つまり、延滞税は納付義務があるという判断が下されています。

その他の税金や保険料の問題

一括受給に伴う問題は所得税の延滞税だけではありません:

  1. 所得税: 過去の各年の雑所得として課税される
  2. 住民税: 過去5年分さかのぼって徴収される可能性あり
  3. 国民健康保険料: 過去2年分(時効のため)の追納が発生する可能性あり
  4. 介護保険料: 同じく過去2年分の追納が発生する可能性あり

これらの追納には、それぞれ延滞税や延滞金が発生する可能性があります。延滞税・延滞金の計算に用いられる利率は、原則として「法定納期限の翌日から2カ月を経過する日まで年7.3%、以後は年14.6%」と非常に高いものです(現在は特例で引き下げられていますが、それでも年2.6〜2.9%と8.9〜9.2%程度)。

改正された年金制度について

2022年4月の年金制度改正により、繰り下げ受給開始の上限年齢が70歳から75歳に延長されました。これにより、71歳以降に請求手続きをする場合の計算方法も変更されています:

  • 71歳で年金請求をすると、5年前の66歳に繰り下げの申し出があったものとして年金額を算定
  • 65歳から1年繰り下げした計算になるため、71歳からの年金額は8.4%(0.7%×12カ月)増額
  • 一括受給分も8.4%増額された年金額の5年分となる

一方、70歳で5年分一括受給した場合には増額はありません。

まとめ

「65歳時に年金の請求手続きをしないなら、繰り下げ受給をする。一括受給は、さまざまな弊害があるので選択肢から外そう」と言う考えもあります。

税金や保険料の追納、さらに延滞税・延滞金が発生する可能性を考えると、一括受給はメリットよりも弊害の方が大きいと言えるでしょう。それでも一括で受け取りたいと考える場合は、税金の知識を持った上で、後から税金や保険料が続々と追求してくることを覚悟して臨む必要があります。

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