「年金は繰り下げたほうが得」は本当か?

年金

「老後のお金、どうしよう…」と考えたとき、多くの方が悩むのが公的年金の受け取り方ではないでしょうか。「繰り下げ受給で年金額を増やすのが得策」という話をよく耳にしますが、本当にお得なのでしょうか? 必ずしもそうとは限らないと指摘があり、「60歳からの繰り上げ受給」を前向きに検討している人もいます。その理由と、年金を賢く活用するヒントを探ってみましょう。

年金の繰り上げ・繰り下げ受給と資産運用

年金の受給開始時期と増減率

公的年金は原則65歳から支給されますが、受給開始時期を早めたり遅らせたりすることができます。

受給方法開始時期1ヶ月あたりの増減率最大増減率 (期間)
繰り上げ受給60歳~64歳11ヶ月-0.4% (※注1)-24% (60歳から受給)
繰り下げ受給66歳~75歳+0.7%+84% (75歳から受給)

※注1:2022年4月以降、繰り上げ受給の減額率は1ヶ月あたり-0.4%に緩和されました。

会社員の場合、基礎年金(国民年金)と厚生年金のいずれか一方だけを繰り下げることも可能です。しかし、繰り上げ受給を選択する場合は、基礎年金と厚生年金をセットで行う必要があります。

繰り下げ受給のメリット・デメリット

よく「お得」といわれる繰り下げ受給ですが、メリットとデメリットをしっかり理解しておくことが大切です。

項目詳細
メリット増額された年金額が終身で継続するため、長生きリスクへの安心感が得られる。
デメリット・注意点早く亡くなると受取総額が少なくなる可能性がある。
年金額が増えると、税金(所得税・住民税)や社会保険料(公的医療保険、公的介護保険)の負担も高くなる可能性がある。
60歳~74歳の公的年金等控除額(最大で60万円×5年 + 110万円×10年 = 1,400万円)を活用できない可能性がある。
老齢厚生年金の繰り下げ待機中は加給年金の支給が停止され、その後受給を開始しても加給年金は増額されない。 例えば、5歳年下の妻がいる場合、夫が厚生年金を5年繰り下げると約200万円の加給年金を受け取れない可能性がある。
老齢基礎年金を繰り下げると、振替加算は受給できなくなる可能性がある。
繰り下げたとしても、遺族年金は65歳水準で計算された金額となる。

例えば、年金額200万円の人が5年繰り下げて70歳から受給すると、年金額は42%増の284万円になります。 しかし、65歳から69歳までの5年間で受け取れたはずの1000万円を取り戻すには、約12年かかります(額面ベース)。 手取りベースではさらに数年を要する可能性があります。

繰り上げ受給のメリット・デメリット

一方、繰り上げ受給はどうでしょうか。一般的には不利といわれがちですが、メリットもあります。

項目詳細
メリット早く年金を受給できる。 生活に余裕があるならNISAなどで増やすことも可能。
60代前半の公的年金等控除額を活用できる。
収入が低くなるため、医療費や介護費などの保険料、自己負担が低くなる可能性がある。
繰り上げたとしても、遺族年金は65歳水準で計算される。 例えば、夫が60歳から繰り上げ受給し63歳で死亡した場合、妻は本来の水準で計算された遺族年金を受け取れる。
繰り下げ受給などと比べて、死亡した時点で相続資産を多めに残せる可能性がある。
デメリット・注意点減額された年金額が終身で継続する。一度繰り上げ請求すると、取り消しはできない。
基礎年金と厚生年金を同時に行う必要がある。
障害年金(非課税)の受給はできなくなる。
国民年金の任意加入や追納で年金額を増やすことができなくなる(ただし、厚生年金加入での増額は可能)。
繰り上げ受給後に被保険者だった期間の保険料負担分が年金額に反映されるのは65歳到達時、在職定時改定時、退職(資格喪失)時となる。
夫が繰り上げて受給し、60代前半(たとえば63歳)で死亡すると、妻は65歳までは遺族年金と自身の老齢年金のどちらかしか受給できない。
繰り上げても加給年金は65歳からとなる。
iDeCoに加入できなくなる。

「60歳以降をどのように過ごしたいか」という価値観を優先すべきであり、「なるべく長く働いて年金は繰り下げた方がいい」という論調には違和感を覚えます。

「年金を運用する」という選択肢

繰り上げ受給を有力な選択肢として考える大きな理由の一つが、「運用すれば増やせる」という視点です。

シミュレーション:年金の受け取り方と資産運用(税・社会保険料は考慮せず)

  • 前提:65歳からの受給額を100万円とした場合
    • 60歳から繰り上げ受給:76万円
    • 70歳から繰り下げ受給:142万円
    • 75歳から繰り下げ受給:184万円
  • 運用利回り:年6%
受給開始年齢65歳時点の累計額 (運用益含む)70歳時点の累計額 (運用益含む)備考
60歳約530万円約1138万円早く受け取る分、運用期間が長くなる。
65歳約698万円
70歳グラフ上、100歳時点でも60歳受給開始が優位。
75歳グラフ上、100歳時点でも60歳受給開始が優位。

このシミュレーションによると、60歳から繰り上げ受給し、全額を年6%で運用した場合、少なくとも100歳までは他の受給開始年齢のケースを運用益込みの総額で上回る結果となっています。

実際には年金額から税金や社会保険料が引かれるため運用に回せる額は少なくなりますが、その場合、年金額が多いほど税や社会保険料負担が増えるため、早く受給して運用することの有利性はむしろ高まる可能性があります。

もちろん、運用にはリスクが伴い、毎年確実に6%で運用できる保証はありません。しかし、投資の基本を理解した上で、繰り上げ受給して運用するという選択肢も十分に検討する価値があるのではないでしょうか。

まとめ

「年金は繰り下げた方が得」という一般的な考え方は、必ずしも全ての人に当てはまるわけではありません。ご自身のライフプラン、価値観、そして資産状況などを総合的に考慮し、繰り上げ受給や年金の運用といった選択肢も視野に入れて、最適な受け取り方を見つけることが大切です。 60代前半は働く、あるいは個人年金があるという方でも、最終的に年金収入だけになるケースは多く、その際に社会保険料や税負担、医療費の自己負担が抑えられることは大きな安心感につながるでしょう。

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