2025年3月31日に政府作業部会から発表された南海トラフ巨大地震の最新被害想定について要約します。この想定は2012-2013年に公表された前回の想定を更新したもので、より現実的な被害予測を示しています。
南海トラフ巨大地震による政府最新被害想定(2025年3月31日発表)
経済被害の予測
南海トラフ巨大地震による経済被害は最大で270.3兆円から292.2兆円と試算されています。これは国の当初予算(一般会計歳出)の2倍を大きく上回る規模です。前回の想定(214.2兆円または237.2兆円)と比較して大幅に増加しており、その主な要因は物価高による復旧に必要な資材費の高騰です。
経済被害の内訳は以下の通りです:
項目 | 被害額 |
---|---|
直接被害(建物・インフラなど) | 224.9兆円 |
ライフライン被害 | 4.3兆円 |
生産・サービス低下による影響 | 45.4兆円 |
ライフライン被害の詳細:
ライフライン | 被害額 |
---|---|
下水道 | 3.4兆円 |
上水道 | 0.8兆円 |
電力 | 0.1兆円 |
地震発生後の影響:
- 地震発生1日後には最大3690万人が上水道を利用できなくなる
- 停電は最大2950万軒で発生
- 固定電話は1310万回線が不通
- 携帯電話は発生直後にほとんど繋がらなくなる
死者数と被害規模の予測
項目 | 以前の予測 | 今回の予測 |
---|---|---|
最大死者数 | 約32.3万人 | 約29.8万人 |
災害関連死 | 初めて想定 | 2.6万人~5.2万人 |
負傷者数 | 不明 | 最大95万人 |
避難者数 | 950万人 | 1230万人(40都府県) |
食料不足 | 3200万食 | 1990万食(3日間) |
今回の死者数は前回よりわずかに減少していますが、依然として甚大な人的被害が予測されています。死者数減少の要因としては、住宅の耐震化の進展、津波避難ビルの増加、海岸堤防の整備などが挙げられます。
死者数の内訳では、津波による死者が21.5万人と全体の7割を占めています。地震発生時の避難行動が人的被害を大きく左右することが示されており、早期避難の意識が高まれば(70%)、死者数は17.7万人にまで減少する可能性があります。
特筆すべき点として、今回初めて「半割れ」ケースが想定されました。これは震源域の東側と西側でM8級の地震が時間をおいて発生するケースで、この場合の死者数は最大17.6万人と想定されています。
地域別の被害想定
- 静岡県から宮崎県にかけての一部地域:震度7の激しい揺れ
- 東海地方など太平洋沿岸の広い地域:10メートルを超える大津波
- 高知県土佐清水市と黒潮町:最大34メートルの津波高
- 静岡県下田市:最大31メートルの津波高
- 愛媛県・徳島県:前回に比べて死者数が約1万人増加
- 愛知県:最大約60平方キロメートルの地域で30センチ以上の浸水
- 大阪府:約27平方キロメートルの地域で30センチ以上の浸水
結論
政府の作業部会が発表した最新の南海トラフ巨大地震の被害想定は、改めてその脅威の大きさを認識させるものとなりました。防災対策の進展により直接的な死者数はわずかに減少したものの、浸水エリアの拡大や新たに想定された災害関連死を含めると、依然として深刻な状況です。
政府は今回の報告書を踏まえ、2014年に策定した防災対策の推進基本計画を今年夏頃を目途に見直す方針を示しています。南海トラフ巨大地震は広範囲にわたる地域に壊滅的な被害をもたらす可能性があり、政府、自治体、企業、そして国民一人ひとりが、防災・減災に向けた取り組みを一層強化していく必要があります。
コメント