2025年年金制度改革法案の完全ガイド

企業

2025年5月16日に閣議決定され国会に提出された「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」は、少子高齢化や就労形態の多様化など社会経済の変化に対応して年金制度を見直すものです。現役世代・高齢世代双方の老後生活の安定と所得保障機能の強化を図ることを目的としており、働き方や男女の違いに中立で、多様化するライフスタイルや家族構成に対応した制度構築を目指しています。

2025年年金制度改革法案の概要

2025年 年金制度改革法案

2025年年金改革関連法案の全容解説

  1. 年金制度改革法案の主な改正ポイント
  2. 各改正内容の詳細
    1. 1. 社会保険の加入対象拡大(「106万円の壁」の撤廃)
      1. 賃金要件の撤廃
      2. 企業規模要件の撤廃(適用拡大の段階実施)
      3. 個人事業所への適用拡大
    2. 2. 在職老齢年金制度の見直し
    3. 3. 遺族年金制度の見直し
    4. 4. 厚生年金の標準報酬月額上限の引き上げ
    5. 5. 私的年金制度(iDeCo)の見直し
    6. その他の改正事項
  3. 年代別に見た将来の年金額・制度変更の影響
    1. 20代(現在:若年層)
    2. 30代(現在:壮年層)
    3. 40代(現在:中年層)
    4. 50代(現在:アラフィフ世代)
    5. 60代以上(現在:高齢世代)
  4. 財源と社会保障制度上の位置付け
    1. 財源へのプラス要因
    2. 財源へのマイナス要因
    3. 年金財政の長期課題と今後
  5. 政治的背景・国民の受け止め
    1. 政府・与党の立場
    2. 野党の主張・対案
    3. 専門家・有識者の意見
    4. 賛成派の意見
    5. 反対・懸念派の意見
  6. まとめ
  7. 年金制度改革法案の主な改正ポイント
  8. 各改正内容の詳細
    1. 1. 社会保険の加入対象拡大(「106万円の壁」の撤廃)
      1. 賃金要件の撤廃
      2. 企業規模要件の撤廃(適用拡大の段階実施)
      3. 個人事業所への適用拡大
    2. 2. 在職老齢年金制度の見直し
    3. 3. 遺族年金制度の見直し
    4. 4. 厚生年金の標準報酬月額上限の引き上げ
    5. 5. 私的年金制度(iDeCo)の見直し
    6. その他の改正事項
  9. 年代別に見た将来の年金額・制度変更の影響
    1. 20代(現在:若年層)
    2. 30代(現在:壮年層)
    3. 40代(現在:中年層)
    4. 50代(現在:アラフィフ世代)
    5. 60代以上(現在:高齢世代)
  10. 財源と社会保障制度上の位置付け
    1. 財源へのプラス要因
    2. 財源へのマイナス要因
    3. 年金財政の長期課題と今後
  11. 政治的背景・国民の受け止め
    1. 政府・与党の立場
    2. 野党の主張・対案
    3. 専門家・有識者の意見
    4. 賛成派の意見
    5. 反対・懸念派の意見
  12. まとめ

年金制度改革法案の主な改正ポイント

政府案に盛り込まれた主な改正点は、大きく以下の5つに分類できます。

改正項目内容施行時期
被用者保険の適用拡大(「106万円の壁」の撤廃)パートタイム労働者等への厚生年金・健康保険の加入要件緩和段階的に実施
在職老齢年金制度の見直し高齢者が働きながら年金を受け取る際の支給停止基準引き上げ2026年4月~
遺族年金制度の見直し遺族厚生年金の給付期間・要件の男女差解消等2028年4月~
標準報酬月額上限の引き上げ厚生年金保険料・給付算定に用いる賃金上限額の段階的引き上げ2027年9月~
私的年金制度の見直し個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢拡大 等2028年度以降

加えて、子の加算額引き上げや脱退一時金制度の見直し、国民年金の任意加入期間延長、離婚時の年金分割請求期限延長など、細則的な改正も含まれています。

各改正内容の詳細

1. 社会保険の加入対象拡大(「106万円の壁」の撤廃)

現在、短時間労働者(パート・アルバイト)が厚生年金・健康保険に加入するためには、週の所定労働時間20時間以上かつ月額賃金8.8万円以上(年収約106万円以上)で、従業員51人以上の企業に勤める等の条件を満たす必要があります。これらの要件を一つでも下回ると社会保険の適用外(第3号被保険者として扶養内)となり、いわゆる「106万円の壁」を意識して労働時間や収入を抑えるケースが多く見られました。

今回の改正では、この「年収106万円の壁」にあたる賃金要件(月8.8万円以上)と企業規模要件(従業員51人以上)を段階的に撤廃し、短時間労働者でも社会保険に加入しやすくします。

賃金要件の撤廃

  • 法律の公布から3年以内に、月収8.8万円以上という加入要件を廃止
  • 週20時間以上働けば収入に関係なく社会保険に加入できる制度に改められる

企業規模要件の撤廃(適用拡大の段階実施)

企業規模要件の拡大スケジュール適用開始時期
従業員 36~50人 の企業まで拡大2027年10月~
従業員 21~35人 の企業まで拡大2029年10月~
従業員 11~20人 の企業まで拡大2032年10月~
全て(~10人以下の企業を含む)に拡大・要件撤廃2035年10月~

個人事業所への適用拡大

  • 2029年10月から業種要件を撤廃し、常時5人以上の従業員がいれば原則全業種で適用

これらの適用拡大により、新たに約90万人の中小企業の短時間労働者が厚生年金等に加入し、将来受け取る年金額の増額などのメリットを得られる見込みです。

2. 在職老齢年金制度の見直し

在職老齢年金制度とは、60歳以上で年金を受給しながら一定以上の賃金収入を得て働く場合に、年金の一部または全部を支給停止(減額)する仕組みです。現行では、65歳以上の高齢者について「年金+給与(月額換算)が50万円」を超えると超過分の年金の半額がカットされます。

今回の改正では、在職老齢年金の支給停止基準額(月収換算)を現行の50万円から62万円に引き上げ、高齢者が年金減額を気にせず働けるよう緩和します。例えば、毎月の年金と給与の合計が62万円以下であれば年金が減額されなくなり、従来よりも約20万人多くの高齢者が減額を意識せず就労継続できる見込みです。

この見直しは2026年4月から施行予定で、企業の定年延長や継続雇用制度とも相まって、70歳近くまで働く高齢者が年金と賃金を両立しやすくなる環境が整備されることになります。

3. 遺族年金制度の見直し

遺族年金は、公的年金の加入者が亡くなったときに、その遺族(配偶者や子)が受け取る給付です。現行制度では、遺族厚生年金について子のない配偶者が受け取れる条件・期間に男女差がありました。

今回の改正では、この男女差を解消し、子のない若い遺族配偶者への給付を男女とも原則5年間の有期給付に統一します。子どものいない60歳未満の配偶者(20~50代の夫または妻)が受け取る遺族厚生年金は原則5年間の期限付きとなり、現在支給対象外だった55歳未満の男性遺族も新たに5年間の給付対象とします。

「有期5年で打ち切り」は一見給付抑制策にも映るため、有期給付者への配慮措置も併せて導入されます:

  1. 死亡による厚生年金の分割(死亡分割)の導入:5年有期給付で打ち切られた後、亡くなった方の厚生年金加入記録の一部を遺族側に移転し、遺族自身の老齢厚生年金額を増額させる仕組みを新設
  2. 有期給付加算の創設:5年間の遺族年金受給期間中に上乗せ給付(加算金)を支給し、生活立て直しの支援を手厚くする
  3. 所得制限の撤廃:遺族が働いているか否かで年金が左右されず、就労を妨げない制度とする
  4. 特例的な給付継続措置:有期5年給付終了後も、遺族の状況によっては年金給付を継続できる特例措置を設ける

なお、現在すでに遺族厚生年金を受給している人(既存受給権者)や、60歳以上の配偶者、18歳未満の子のいる20~50代の配偶者については現行制度の給付内容が維持されます。この改正は2028年4月から施行され、影響範囲が広いため20年かけて段階的に実施される予定です。

また、遺族基礎年金についても見直しがあります。親の再婚・収入状況・養子縁組など子ども自身の選択によらない事情に左右されず、子どもが遺族基礎年金を受給できるよう制度を改善します。

4. 厚生年金の標準報酬月額上限の引き上げ

厚生年金の保険料および将来の年金額は、基本的に標準報酬月額(月収を一定の等級区分に当てはめた額)に基づいて計算されます。現行では月65万円が最高等級となっており、実際の給与が65万円を超える高所得者は、それ以上収入があっても保険料負担割合が頭打ちとなっていました。

改正案では、「高収入者にも賃金に応じた負担をしてもらい、その分将来の年金給付を手厚くする」ことを目的に、この標準報酬月額の上限を引き上げます。

施行時期標準報酬月額上限
2027年9月~68万円
2028年9月~71万円
2029年9月~75万円

段階的実施により、2029年度以降は現在より月10万円高い75万円までの報酬に対して社会保険料が課されることになります。この変更で該当者(高所得の会社員等)およびその企業は保険料負担が増えますが、その分将来受け取れる年金額も増加します。

5. 私的年金制度(iDeCo)の見直し

老後の資産形成を支援する個人型確定拠出年金(iDeCo)についても加入要件が緩和されます。現行制度では、iDeCoに加入できるのは国民年金の被保険者であり、かつ老齢基礎年金やiDeCoの年金給付を受給していない人に限られます。

改正案ではこの年齢要件を統一・緩和し、60歳以上70歳未満の人で、老齢基礎年金やiDeCo年金をまだ受給していない場合は、iDeCoに新規加入または掛金拠出の継続を認めるよう拡充します。簡潔に言えば、iDeCoの加入可能年齢の上限が現行の「65歳未満」から「70歳未満」へ引き上げられます。

その他の改正事項

  1. 子の加算額の引き上げ:年金受給者に扶養すべき子どもがいる場合に加算される「子の加算」について、支給額を増額。改正後は子ども1人につき一律年額28万1,700円に統一され、第3子以降の加算額が大幅に増える形になります。
  2. 脱退一時金制度の見直し:外国人労働者などが短期間で日本を離れる場合の脱退一時金の算定上限期間を現行の5年から8年に延長
  3. 遺族厚生年金受給権者の老齢年金繰下げ受給の解禁:遺族厚生年金を受け取っている人でも本人の老齢年金を繰下げできるようにします。
  4. 国民年金保険料の納付猶予制度の延長:本人・配偶者所得のみで判断する特例猶予を2035年6月まで継続
  5. 国民年金の高齢任意加入期間の延長:資格期間を満たすまで任意加入できる制度の対象を1975年4月1日生まれまで拡大
  6. 離婚時の年金分割請求期限の延長:離婚後の請求期限を従来の2年から5年に延長

年代別に見た将来の年金額・制度変更の影響

20代(現在:若年層)

  • 就職初期から厚生年金に加入できる機会が拡大
  • 週20時間以上であれば収入に関係なく社会保険に加入可能
  • 長期的には加入期間・収入が増えることで受給権を確実に得られ、老後の年金が充実

30代(現在:壮年層)

  • 子育て世帯への支援強化の恩恵あり(子の加算額増額)
  • 配偶者がパート勤めの場合は厚生年金に加入する枠が広がる
  • 高所得者であれば標準報酬月額上限引き上げによってより多く保険料を納め、将来多くの年金を得るチャンス

40代(現在:中年層)

  • 企業規模要件撤廃が進むことで、転職や副業で中小企業・フリーランスとして働く場合でも社会保険に加入できる場面が増加
  • 高収入者であれば標準報酬月額の上限引上げにより現役時代の負担増があるが、その分退職後の年金額増加というリターンも見込める

50代(現在:アラフィフ世代)

  • 在職老齢年金やiDeCo拡充など、この世代に直接響く項目が多い
  • 在職老齢年金の支給停止基準引上げにより、60代前半で働き続ける場合の年金減額が大幅に緩和
  • iDeCo加入可能年齢の70歳未満まで延長により、退職後も数年間は私的年金に拠出し続けられる

60代以上(現在:高齢世代)

  • 年金を受給している高齢世代への直接的影響は限定的
  • 「子の加算額引き上げ」は現受給者にも適用されるため、孫を養育している場合は2028年以降加算額が増えて年金が増額
  • 60代後半で働いている人は在職老齢年金の緩和により年金の全額受給と賃金所得の両立がしやすくなる

財源と社会保障制度上の位置付け

財源へのプラス要因

  • 新たに社会保険に加入する人が増えることで、現役世代からの保険料収入が増加
  • 適用拡大で約90万人の短時間労働者が厚生年金に加入すれば、その保険料負担の半分は国庫に入り年金財政の強化に寄与
  • 標準報酬月額上限の引き上げにより、高収入者から今まで以上に保険料を徴収できる
  • 従来は保険料を払っていなかった第3号被保険者層が適用拡大で第2号に移行すると新規保険料収入が発生

財源へのマイナス要因

  • 子の加算増額や遺族給付の男性拡大、有期給付者への加算新設などは直接的に給付金額を増やすため支出増
  • 在職老齢年金の基準引上げにより、当面は年金支給額が増える(減額幅が縮小する)ため支出増

年金財政の長期課題と今後

  • マクロ経済スライドの名目下限措置撤廃や年金支給開始年齢の引き上げといった抜本策も専門家間では議論されているが、今回の改革では見送られた
  • 次回(2029年)の財政検証結果を見て判断するとして先送りされた基礎年金の底上げ策については、与野党協議の結果、法案の附則に盛り込まれる方向

政治的背景・国民の受け止め

政府・与党の立場

  • 当初は「全世代型社会保障改革」の一環として改正事項を検討
  • 厚生年金積立金の基礎年金への活用(底上げ策)については自民党内の一部から「厚生年金の流用だ」との強い反発があり、最終的に法案からこの柱を削除
  • 財政的にデリケートな部分は後回しにし、働き方改革・男女平等に資する項目を前面に出した

野党の主張・対案

  • 立憲民主党は「2029年の財政検証で基礎年金給付水準の低下が見込まれる場合には底上げ策を実施する」と法律に明記することを求め、与党もこの修正要求を受け入れる方針

専門家・有識者の意見

  • 「方向性は妥当だが不十分」との声が多い
  • マクロ経済スライドの調整ルール見直しや支給開始年齢の引上げなど踏み込んだ議論を期待
  • 「遺族年金5年有期」については「男女平等化であり女性だけ損をするわけではない」と誤解を正す声も

賛成派の意見

  • 「今回の改革は社会の変化に合わせた必要な対応」と評価
  • 働き方の多様化に即した適用拡大は「不合理な壁(106万円・130万円)を取り払い、公平な制度に近づける一歩」と肯定的
  • 遺族年金の男女差解消についても「時代遅れだった男性遺族軽視を改めるもの」と支持

反対・懸念派の意見

  • 「結局、将来世代の年金水準が根本的に上がるわけではない」という指摘
  • 基礎年金の底上げ策が先送りされたことで「今の若者が高齢者になる頃には年金が目減りしているのでは」という不信感
  • 遺族年金の有期化については「専業主婦で夫に先立たれた場合、5年で年金が切れたら生活できない」と不安の声

まとめ

2025年の年金制度改革法案は、公的年金制度の様々な側面にメスを入れる包括的な内容となりました。少子高齢化という避けられない現実の中で、働き手を増やし、給付の在り方を公正化し、将来世代の生活基盤を守ることがその狙いです。今回の改正によって、「壁」に悩まされていたパート労働者は安心して働け、高齢者は意欲に応じて長く働け、男女で制度上平等に扱われ、子どもや遺族への保障もきめ細かくなる方向です。

もちろん、課題が全て解決するわけではありません。財源問題や年金水準の長期低下リスク、制度を支える現役世代の減少といった根本的テーマは残されています。それでも政府は「年金制度は持続可能であり続ける」と強調しており、今回の改革はそのための第一歩と位置付けられます。

2025年年金制度改革法案の完全ガイド

2025年5月16日に閣議決定され国会に提出された「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」は、少子高齢化や就労形態の多様化など社会経済の変化に対応して年金制度を見直すものです。現役世代・高齢世代双方の老後生活の安定と所得保障機能の強化を図ることを目的としており、働き方や男女の違いに中立で、多様化するライフスタイルや家族構成に対応した制度構築を目指しています。

年金制度改革法案の主な改正ポイント

政府案に盛り込まれた主な改正点は、大きく以下の5つに分類できます。

改正項目内容施行時期
被用者保険の適用拡大(「106万円の壁」の撤廃)パートタイム労働者等への厚生年金・健康保険の加入要件緩和段階的に実施
在職老齢年金制度の見直し高齢者が働きながら年金を受け取る際の支給停止基準引き上げ2026年4月~
遺族年金制度の見直し遺族厚生年金の給付期間・要件の男女差解消等2028年4月~
標準報酬月額上限の引き上げ厚生年金保険料・給付算定に用いる賃金上限額の段階的引き上げ2027年9月~
私的年金制度の見直し個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢拡大 等2028年度以降

加えて、子の加算額引き上げや脱退一時金制度の見直し、国民年金の任意加入期間延長、離婚時の年金分割請求期限延長など、細則的な改正も含まれています。

各改正内容の詳細

1. 社会保険の加入対象拡大(「106万円の壁」の撤廃)

現在、短時間労働者(パート・アルバイト)が厚生年金・健康保険に加入するためには、週の所定労働時間20時間以上かつ月額賃金8.8万円以上(年収約106万円以上)で、従業員51人以上の企業に勤める等の条件を満たす必要があります。これらの要件を一つでも下回ると社会保険の適用外(第3号被保険者として扶養内)となり、いわゆる「106万円の壁」を意識して労働時間や収入を抑えるケースが多く見られました。

今回の改正では、この「年収106万円の壁」にあたる賃金要件(月8.8万円以上)と企業規模要件(従業員51人以上)を段階的に撤廃し、短時間労働者でも社会保険に加入しやすくします。

賃金要件の撤廃

  • 法律の公布から3年以内に、月収8.8万円以上という加入要件を廃止
  • 週20時間以上働けば収入に関係なく社会保険に加入できる制度に改められる

企業規模要件の撤廃(適用拡大の段階実施)

企業規模要件の拡大スケジュール適用開始時期
従業員 36~50人 の企業まで拡大2027年10月~
従業員 21~35人 の企業まで拡大2029年10月~
従業員 11~20人 の企業まで拡大2032年10月~
全て(~10人以下の企業を含む)に拡大・要件撤廃2035年10月~

個人事業所への適用拡大

  • 2029年10月から業種要件を撤廃し、常時5人以上の従業員がいれば原則全業種で適用

これらの適用拡大により、新たに約90万人の中小企業の短時間労働者が厚生年金等に加入し、将来受け取る年金額の増額などのメリットを得られる見込みです。

2. 在職老齢年金制度の見直し

在職老齢年金制度とは、60歳以上で年金を受給しながら一定以上の賃金収入を得て働く場合に、年金の一部または全部を支給停止(減額)する仕組みです。現行では、65歳以上の高齢者について「年金+給与(月額換算)が50万円」を超えると超過分の年金の半額がカットされます。

今回の改正では、在職老齢年金の支給停止基準額(月収換算)を現行の50万円から62万円に引き上げ、高齢者が年金減額を気にせず働けるよう緩和します。例えば、毎月の年金と給与の合計が62万円以下であれば年金が減額されなくなり、従来よりも約20万人多くの高齢者が減額を意識せず就労継続できる見込みです。

この見直しは2026年4月から施行予定で、企業の定年延長や継続雇用制度とも相まって、70歳近くまで働く高齢者が年金と賃金を両立しやすくなる環境が整備されることになります。

3. 遺族年金制度の見直し

遺族年金は、公的年金の加入者が亡くなったときに、その遺族(配偶者や子)が受け取る給付です。現行制度では、遺族厚生年金について子のない配偶者が受け取れる条件・期間に男女差がありました。

今回の改正では、この男女差を解消し、子のない若い遺族配偶者への給付を男女とも原則5年間の有期給付に統一します。子どものいない60歳未満の配偶者(20~50代の夫または妻)が受け取る遺族厚生年金は原則5年間の期限付きとなり、現在支給対象外だった55歳未満の男性遺族も新たに5年間の給付対象とします。

「有期5年で打ち切り」は一見給付抑制策にも映るため、有期給付者への配慮措置も併せて導入されます:

  1. 死亡による厚生年金の分割(死亡分割)の導入:5年有期給付で打ち切られた後、亡くなった方の厚生年金加入記録の一部を遺族側に移転し、遺族自身の老齢厚生年金額を増額させる仕組みを新設
  2. 有期給付加算の創設:5年間の遺族年金受給期間中に上乗せ給付(加算金)を支給し、生活立て直しの支援を手厚くする
  3. 所得制限の撤廃:遺族が働いているか否かで年金が左右されず、就労を妨げない制度とする
  4. 特例的な給付継続措置:有期5年給付終了後も、遺族の状況によっては年金給付を継続できる特例措置を設ける

なお、現在すでに遺族厚生年金を受給している人(既存受給権者)や、60歳以上の配偶者、18歳未満の子のいる20~50代の配偶者については現行制度の給付内容が維持されます。この改正は2028年4月から施行され、影響範囲が広いため20年かけて段階的に実施される予定です。

また、遺族基礎年金についても見直しがあります。親の再婚・収入状況・養子縁組など子ども自身の選択によらない事情に左右されず、子どもが遺族基礎年金を受給できるよう制度を改善します。

4. 厚生年金の標準報酬月額上限の引き上げ

厚生年金の保険料および将来の年金額は、基本的に標準報酬月額(月収を一定の等級区分に当てはめた額)に基づいて計算されます。現行では月65万円が最高等級となっており、実際の給与が65万円を超える高所得者は、それ以上収入があっても保険料負担割合が頭打ちとなっていました。

改正案では、「高収入者にも賃金に応じた負担をしてもらい、その分将来の年金給付を手厚くする」ことを目的に、この標準報酬月額の上限を引き上げます。

施行時期標準報酬月額上限
2027年9月~68万円
2028年9月~71万円
2029年9月~75万円

段階的実施により、2029年度以降は現在より月10万円高い75万円までの報酬に対して社会保険料が課されることになります。この変更で該当者(高所得の会社員等)およびその企業は保険料負担が増えますが、その分将来受け取れる年金額も増加します。

5. 私的年金制度(iDeCo)の見直し

老後の資産形成を支援する個人型確定拠出年金(iDeCo)についても加入要件が緩和されます。現行制度では、iDeCoに加入できるのは国民年金の被保険者であり、かつ老齢基礎年金やiDeCoの年金給付を受給していない人に限られます。

改正案ではこの年齢要件を統一・緩和し、60歳以上70歳未満の人で、老齢基礎年金やiDeCo年金をまだ受給していない場合は、iDeCoに新規加入または掛金拠出の継続を認めるよう拡充します。簡潔に言えば、iDeCoの加入可能年齢の上限が現行の「65歳未満」から「70歳未満」へ引き上げられます。

その他の改正事項

  1. 子の加算額の引き上げ:年金受給者に扶養すべき子どもがいる場合に加算される「子の加算」について、支給額を増額。改正後は子ども1人につき一律年額28万1,700円に統一され、第3子以降の加算額が大幅に増える形になります。
  2. 脱退一時金制度の見直し:外国人労働者などが短期間で日本を離れる場合の脱退一時金の算定上限期間を現行の5年から8年に延長
  3. 遺族厚生年金受給権者の老齢年金繰下げ受給の解禁:遺族厚生年金を受け取っている人でも本人の老齢年金を繰下げできるようにします。
  4. 国民年金保険料の納付猶予制度の延長:本人・配偶者所得のみで判断する特例猶予を2035年6月まで継続
  5. 国民年金の高齢任意加入期間の延長:資格期間を満たすまで任意加入できる制度の対象を1975年4月1日生まれまで拡大
  6. 離婚時の年金分割請求期限の延長:離婚後の請求期限を従来の2年から5年に延長

年代別に見た将来の年金額・制度変更の影響

20代(現在:若年層)

  • 就職初期から厚生年金に加入できる機会が拡大
  • 週20時間以上であれば収入に関係なく社会保険に加入可能
  • 長期的には加入期間・収入が増えることで受給権を確実に得られ、老後の年金が充実

30代(現在:壮年層)

  • 子育て世帯への支援強化の恩恵あり(子の加算額増額)
  • 配偶者がパート勤めの場合は厚生年金に加入する枠が広がる
  • 高所得者であれば標準報酬月額上限引き上げによってより多く保険料を納め、将来多くの年金を得るチャンス

40代(現在:中年層)

  • 企業規模要件撤廃が進むことで、転職や副業で中小企業・フリーランスとして働く場合でも社会保険に加入できる場面が増加
  • 高収入者であれば標準報酬月額の上限引上げにより現役時代の負担増があるが、その分退職後の年金額増加というリターンも見込める

50代(現在:アラフィフ世代)

  • 在職老齢年金やiDeCo拡充など、この世代に直接響く項目が多い
  • 在職老齢年金の支給停止基準引上げにより、60代前半で働き続ける場合の年金減額が大幅に緩和
  • iDeCo加入可能年齢の70歳未満まで延長により、退職後も数年間は私的年金に拠出し続けられる

60代以上(現在:高齢世代)

  • 年金を受給している高齢世代への直接的影響は限定的
  • 「子の加算額引き上げ」は現受給者にも適用されるため、孫を養育している場合は2028年以降加算額が増えて年金が増額
  • 60代後半で働いている人は在職老齢年金の緩和により年金の全額受給と賃金所得の両立がしやすくなる

財源と社会保障制度上の位置付け

財源へのプラス要因

  • 新たに社会保険に加入する人が増えることで、現役世代からの保険料収入が増加
  • 適用拡大で約90万人の短時間労働者が厚生年金に加入すれば、その保険料負担の半分は国庫に入り年金財政の強化に寄与
  • 標準報酬月額上限の引き上げにより、高収入者から今まで以上に保険料を徴収できる
  • 従来は保険料を払っていなかった第3号被保険者層が適用拡大で第2号に移行すると新規保険料収入が発生

財源へのマイナス要因

  • 子の加算増額や遺族給付の男性拡大、有期給付者への加算新設などは直接的に給付金額を増やすため支出増
  • 在職老齢年金の基準引上げにより、当面は年金支給額が増える(減額幅が縮小する)ため支出増

年金財政の長期課題と今後

  • マクロ経済スライドの名目下限措置撤廃や年金支給開始年齢の引き上げといった抜本策も専門家間では議論されているが、今回の改革では見送られた
  • 次回(2029年)の財政検証結果を見て判断するとして先送りされた基礎年金の底上げ策については、与野党協議の結果、法案の附則に盛り込まれる方向

政治的背景・国民の受け止め

政府・与党の立場

  • 当初は「全世代型社会保障改革」の一環として改正事項を検討
  • 厚生年金積立金の基礎年金への活用(底上げ策)については自民党内の一部から「厚生年金の流用だ」との強い反発があり、最終的に法案からこの柱を削除
  • 財政的にデリケートな部分は後回しにし、働き方改革・男女平等に資する項目を前面に出した

野党の主張・対案

  • 立憲民主党は「2029年の財政検証で基礎年金給付水準の低下が見込まれる場合には底上げ策を実施する」と法律に明記することを求め、与党もこの修正要求を受け入れる方針

専門家・有識者の意見

  • 「方向性は妥当だが不十分」との声が多い
  • マクロ経済スライドの調整ルール見直しや支給開始年齢の引上げなど踏み込んだ議論を期待
  • 「遺族年金5年有期」については「男女平等化であり女性だけ損をするわけではない」と誤解を正す声も

賛成派の意見

  • 「今回の改革は社会の変化に合わせた必要な対応」と評価
  • 働き方の多様化に即した適用拡大は「不合理な壁(106万円・130万円)を取り払い、公平な制度に近づける一歩」と肯定的
  • 遺族年金の男女差解消についても「時代遅れだった男性遺族軽視を改めるもの」と支持

反対・懸念派の意見

  • 「結局、将来世代の年金水準が根本的に上がるわけではない」という指摘
  • 基礎年金の底上げ策が先送りされたことで「今の若者が高齢者になる頃には年金が目減りしているのでは」という不信感
  • 遺族年金の有期化については「専業主婦で夫に先立たれた場合、5年で年金が切れたら生活できない」と不安の声

まとめ

2025年の年金制度改革法案は、公的年金制度の様々な側面にメスを入れる包括的な内容となりました。少子高齢化という避けられない現実の中で、働き手を増やし、給付の在り方を公正化し、将来世代の生活基盤を守ることがその狙いです。今回の改正によって、「壁」に悩まされていたパート労働者は安心して働け、高齢者は意欲に応じて長く働け、男女で制度上平等に扱われ、子どもや遺族への保障もきめ細かくなる方向です。

もちろん、課題が全て解決するわけではありません。財源問題や年金水準の長期低下リスク、制度を支える現役世代の減少といった根本的テーマは残されています。それでも政府は「年金制度は持続可能であり続ける」と強調しており、今回の改革はそのための第一歩と位置付けられます。

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